UWC ISAK JAPAN
KICC + Taniya Lodge



























創造性とウェルネスが交わるコモンの拠点
長野県軽井沢の豊かな自然環境に位置する全寮制のインターナショナルスクール、UWC ISAK JAPANの校舎2棟の新築計画である。
「世界にポジティブな影響を与えるチェンジメーカーの育成」を教育方針に掲げるISAKは、2014年の創立以来、漸進的にキャンパスを拡張してきた。
第6期にあたる今回の拡張計画では、創造的学習を促進する「Koshiba Innovation & Creative Center(KICC)」と、ウェルネスを支える「Taniya Lodge」を整備することとなった。
KICCは、美術、デジタルファブリケーション、映像・舞台芸術、屋外教育などのクリエイティブ系教科の教室、自習室、進学相談室を備えた生徒の創造的探究を支える空間である。
一方、Taniya Lodgeは、沈思黙考のためのZen Room、フィットネスルーム、保健室、さらに感染症時の療養室を含むウェルネスセンターとして機能する。
キャンパスの中枢を担う配置計画
創立以来のキャンパス拡張の過程で、雑木林に包まれたキャンパスには、主に南向きの直方体ボリュームの建物がシンプルに並置されてきた。
しかし、全体を貫くマスタープランや、キャンパスの中心となる場は、これまで明確に設けられてこなかった。
本計画地は、既存の第4寮棟「Residence 4」と、管理機能を併設した教室棟「KAMIYAMA Academic Center(KAC)」の間に位置する。
視察やヒアリングの際、計画地付近は生徒が行き交い、立ち話を交わす場として自然発生的に機能していることがうかがえた。
そこで、今回の設計ではこのエリアをより明確なキャンパスのコアとして再構築すべく、広場を形成するように2棟を配置した。
東西に長いKICCは、北側のResidence 4と南側のKACの往来を妨げることなく、中央を通り抜けられる2階建てとすることで、開放性と南北の屋外空間の連続性を確保した。
それに対して、Taniya Lodgeは南北方向に配置し、KICCと緩やかなL字型を形成することで、屋外広場を包み込むようなレイアウトとしている。
2棟が形成する広場はShimada Commonsと名付けられ、これから生徒と教員有志のクリエイティビティを活かしながら整備されていく予定だ。
三者が呼応することで、このエリアは、創造性とウェルネスが交差する、キャンパスの新たな拠点となるだろう。
多様なバックグラウンドを持つ生徒のための「居場所」
UWC ISAK JAPANは、世界各国から集まる生徒たちが共同生活を送りながら学ぶ場であり、多様性に富んだコミュニティを形成している。
そのため、設計においても、異なる文化背景を持つ生徒が安心して過ごせる「居場所」の創出を重視した。
キャンパス内で温もりを感じられる場を求める声が多く聞かれたことから、1階の外装材に焼杉板を採用し、軒裏は垂木現しとするなど、素材面でも自然の温もりを感じられるよう試みた。
建築構成
KICCの1階には、東側にアート制作系の教室群(美術室、デジタルファブリケーション室、電動工具の使用にも対応する工作室)、西側に舞台・演劇用教室と屋外学習教室(Outdoor Education Room)を配した。
これら二つのブロックの間には視線と人の流れが抜ける通路を設け、キャンパス全体の動線に対して建築が開かれた接点として介在する構成とした。
分節された両ブロックを切妻屋根で覆うことで、内部の多様な用途に一体感と水平性を与えている。
また、キャンティレバーによってせり出した2階部分は、建築を“ゲート”として象徴づけ、キャンパスの中核としての位置づけを明確にしている。
2階には自習室と進学相談室を設け、生徒が自身の学びや将来と向き合う場として機能させている。
Taniya Lodgeは敷地の南北方向にかけての緩やかな傾斜を取り込み、エントランスポーチを基点に、南側にフィットネスルーム、北側に主要部、さらに階段を上って奥に進むZen Roomという構成とし、それぞれにレベル差を設けた。全体としては水平性を基調としつつも、地形との応答によって空間にリズムを与えている。
フィットネスルームは、広場に面する東側と南側に大開口を設け、周囲の自然に開かれた環境の中で身体を動かすことができる。
主要部分は、東側に保健室、西側にカウンセリングルームや療養室といった高いプライバシーを要する機能を配し、用途に応じて空間の開放性や静けさの度合いを調整した。
Zen Roomは畳敷きの静謐な空間で、西面の大開口越しに軽井沢の自然と向き合い、内省の時間を過ごすことができる。
建物全体の水平的な構成からこの空間のボリュームを浮かび上がらせることで、共同生活の中におけるつながりと、個の内面に向かう時間の交錯を空間的に表現している。
本プロジェクトがUWC ISAK JAPANの教育理念を体現し、生徒たちがより充実した学びと生活を送るための重要な拠点としての役割を果たせれば幸いである。
DATA
所在地 | 長野県北佐久郡軽井沢町 |
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主要用途 | 学校 |
構造・構法 | 木造 |
階数 | 地上2階 |
敷地面積 | 5800.98 m2 |
建築面積 | KICC: 346.16 m2 Taniya Lodge: 222.69 m2 (合計 568.85 m2) |
延床面積 | KICC: 399.48 m2 Taniya Lodge: 221.50 m2 (合計 620.98 m2) |
設計担当 | 武富恭美 |
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構造設計 | 梅沢建築構造研究所 |
設備設計 | 環境エンジニアリング |
施工会社 | 松代建設工業 |
撮影 | 小川重雄 |
竣工 | 2024年11月 |