医療施設

JR久喜駅より徒歩5分ほどの、戸建ての矯正歯科医院である。
リゾートがお好きな院長の「いわゆる『病院』らしくない建築を」との要望から、別荘や住宅の設計手法を応用し、心やすらぐ空間を目指した。

エントランス脇の待合スペースは、全面ガラスを開放することで、外のウッドデッキと一体利用ができる。
待合スペースの奥、正方形プランの中心に、受付カウンターを斜め45度に挿入した。
斜めの受付カウンターが1、2階診察室への動線の起点となり、空間に動きと回遊性のリズムがもたらされた。
待合スペース上部の吹き抜けと、その周囲を巡り2階診察室に上がる階段によって、回遊性は垂直方向にもゆるやかに立ち上る。

田の字型に構成された空間それぞれに適切な天井高さを検討し、屋根は対角線上に勾配をもつ片流れを採用した。
勾配を対角線上にとると、屋根を支える軒桁が四周の外壁面全てで斜めに架かり、片筋交のように水平力を負担できるのがメリットだ。
軒桁の下に全周ハイサイドライトを設け、さらに屋根の中央には受付カウンターと呼応する斜め45度のトップライトを設置した。

診察室などの目線レベルの壁面は、プライバシーの観点から窓開口が絞られているが、ハイサイドライトとトップライトによって、プライベート感を保ちつつ開放感も味わえる。

また、天井面は垂木現しとし、垂木を架ける方向を田の字型の空間に合わせて変えた。
下から見上げると、様々な方向の垂木がハイサイドライトとトップライトの光に照らされ、森の木漏れ日のような複雑な陰影が感じられる。
垂木の方向を変えたことは、デザイン上の効果だけでなく、梁の負担荷重の平均化により、構造部材の簡略化とコスト削減にもつながった。

歯科クリニックでの治療中は上を向いている時間が長いため、多様な方向から見える空や、垂木のぬくもりがもたらす癒しの効果はひときわ高いだろう。

典型的なビルディングタイプとは異なるアプローチをとることで、同じ建築的ボキャブラリーでも新たな意味や効果が得られることを実感したプロジェクトである。

DATA

所在地 埼玉県久喜市久喜中央
主要用途 診療所
構造・構法 木造
階数 地上2階
敷地面積 194.07m2
建築面積 93.17m2
延床面積 143.05m2
設計担当 武富恭美
構造設計 小西泰孝建築構造設計
施工会社 ダブルボックス
撮影 Nacasa & Partners
竣工 2018年11月
備考 FF&E協力:石井ひさえ

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