文化施設

東大寺総合文化センターは東大寺の南大門から境内に入ってすぐ左側に位置し、門から大仏殿に向かう参道に面する複合施設である。
総合文化センター館内には東大寺ミュージアム、収蔵庫、図書館、研究所、ホール、カフェが備えられている。

本計画では、総合文化センターの前に建つ券売所と、総合文化センターと参道に挟まれたエリアの外構整備を担当した。

【券売所】
券売所は木造平屋建てで、大仏殿および東大寺ミュージアムのチケット販売のほか、境内の観光案内、東大寺ミュージアムの企画展示内容周知など、東大寺全体のインフォメーションセンターとしての役割を担っている。
建物外壁には東大寺ミュージアムの企画展のパネルを掲示できるよう求められた。

総合文化センターの敷地は、かつて塔頭*1があった場所である。
参道には建物を建てないという境内整備委員会の方針により、券売所は旧塔頭の敷地内に収まるよう、総合文化センターの土塀より内側に建設することとなった。

構造の計画にあたっては地盤面下の浅い位置に周知の埋蔵文化財があるため、基礎は通常より浅いべた基礎としている。

雨天時に券売所窓口に人が並ぶことに配慮し、正面の軒の出を1,820mmと大きく取った。
その軒先を支えるため、古建築の構造方式である遊離尾垂木(ゆうりおだるき)を採用した。

大仏様の構造材「遊離尾垂木」のある軒下

遊離尾垂木は天秤状の原理で軒先を跳ね上げる構造材で、東大寺の鎌倉再建を行った重源上人*2が使用した大仏様*3の構法である。

この建物では垂木*4野地板*5を兼用した厚さ60mm幅120mmの杉角板を本実加工*6で並べ、それを支える丸桁*7を遊離尾垂木が跳ね上げるように計画した。

古建築の知恵を現代の建築に活かしたものである。

 ー注ー
  *1塔頭(たっちゅう):大きな寺院の敷地内に建つ庵や小寺院。
 *2 重源上人(ちょうげんしょうにん 1121-1206):中国(南宋)で建築術を習得した日本の僧。東大寺勧進職。
 *3 大仏様(だいぶつよう):重源がもたらした鎌倉初期の建築様式。
 *4 垂木(たるき):屋根の一番高い棟木(むなぎ)から軒桁(のきけた)にかける斜めの構造材。
 *5 野地板(のじいた):屋根の下地板。通常、垂木の上に貼られる。
 *6 本実加工(ほんざねかこう):板材同士をつなぎ合わせる方法。板材の片側の側面を凸、反対側を凹で加工する。
 *7 丸桁(がぎょう):垂木を支える桁で、最も軒先近くにあるもの。


【外構整備】
計画時、インバウンド客の増加もあり、境内には修学旅行生などが集合できるスペースや旅行客の休憩場所が不足していた。
そこで、南大門から大仏殿に向かう参道と総合文化センターの土塀の間のエリアを舗装し、樹木の周囲にベンチとスツールを設置した。

舗装材には、寺にストックされていた参道の舗石に使われた御影石と、透水性のある洗い出し風自然石舗装を組み合わせて用いている。

ランドスケープファニチャーは正方形の角を落とした木製ベンチと、石のキューブ状スツールの2種類を3箇所ずつ、既存樹木を取り囲むようにランダムに配置し、多様性をもたせた。

整備前は通過するだけのエリアだったが、完成後は木陰のベンチや椅子に座り、談笑したり休憩したりする人々の姿が見られるようになった。

DATA

所在地 奈良県奈良市水門町
主要用途 寺院
構造・構法 木造
階数 地上1階
敷地面積 344,282.04m2
建築面積 66.82m2
延床面積 52.41m2
設計担当 岩田恵
構造設計 KAP 岡村仁
施工会社 清水建設
撮影 岩田恵
竣工 2018年9月
備考 外構:近鉄造園

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